うどん県でうどんを食べる
讃岐うどんはおいしい。讃岐でたべる讃岐うどんは本当においしい。
という事実は、現在は広く知られるようになった。素晴らしいことである。私は1998年か1999年、はじめて高松に出張したときにこの事実を知った。それいらい、讃岐に行くと4玉は食べたい、みたいな行動をしている。
ある日、讃岐うどんのためのショートトリップを決めてきた。5店舗5玉の完全なうどん旅である。現代は、Google マップや食べログのような情報を、Android端末などで活用することで、優れたうどんプランを容易に構築できる素晴らしい時代である。そして、今も昔も讃岐うどんは素晴らしい。
ここは写真3枚なブログなので3店舗紹介する。どれも素晴らしい讃岐うどんであるが、そのユーザー体験はかなり異なることに注意してほしい。どれもうまいが、どれもちょっとずつ、いやかなり違うのである。
山内うどん店——ぼくの基準、ぼくの原点
最初は山内うどんさんである。超有名店である。でもはずすわけにはいかない。はじめて食べたとき、これが本場の力かと度肝を抜かれた店であるからだ。
オーダーしたのは「ひやあつ小」。ゆでたあと締めた冷たいうどんに、あたたかいつゆをかけた、かけうどんである。まずつゆをひとくち。いりこだしの風味とたしかな塩分を感じながらも、とても澄んでいる。香りはよい。濃厚で薫り高く澄んでいるってベタベタな表現だがじっさいそうだ。
続いて麺をひとくち。表面はつるんとしていて、かみ切るまでの感触は一定で心地よい。小麦のたしかな香りと味を感じる。つゆと一体になると、もう完全食品としか表現できない。完全な食品である。パーフェクトに完全な食品フードだ。
気がつくと、夢中で食べていた。いついってもうまいが、この日は午前9時30分という早朝アタックが功を奏したか、これまでの中で一番うまかったように思う。きっとまた行く。
須崎食料品店——あらゆるカルボナーラを超越するユーザー体験
次にお伝えしたいのが須崎食料品店さんである。名前の通り、食料品店さんのわきでゆでたてのうどんを売っている。「熱いの小、たまご」をオーダーした。器にもられたうどんに、自分で卵を割り入れ、濃縮だしをかけ、ネギとショウガをのせる。席はほとんどないので車の中で食べた。
うまい。麺は山内さんのそれとはちがって、周辺から中心部にかけてテクスチャに変化がある。表面近くはこしがあるうどんだが、中心部に向かうにしたがって、その抵抗がゆっくり大きくなり、最後にぷつんと切れて口の中でおどる。
濃縮だしは、少し化学調味料を感じるものの、醤油、出汁、卵と渾然一体となると、このうどんのうまさを加速させるのに不可欠の要素だとわかる*1。そういえば卵のそばに味の素がおいてあった。
卵をかき混ぜて、カルボナーラ状態にしていただく。3口目から夢中になり、うまさに麻痺したぼくの脳みそには、完食するまでの記憶がない。思い出しても恍惚な気分にしかなれない。完全なユーザー体験である。完全でパーフェクトなユーザー・エクスペリエンスだ。
讃岐ベストと呼ぶ人がいる。食べログのレビューでも、なぜかテンションがおかしくなってる人が多い。ぜひチェックしてほしい。
長田うどん——まるで焼きたてのベーグルのような
最後は釜揚げうどんである。これまでみたうどんは、ゆでた麺を冷水で締めてぬめりをとったものである*2。釜揚げとはこの工程をふまず、ゆでたてそのものである。締めた麺と釜揚げ、どちらがうまいのかと問われれば、ぼくにとってはどっちもうまい。別の食べ物、イエット・アナザー・ヌードルである。
さて、長田うどんさんの釜揚げはたいへん素晴らしかった。まずはつゆにつけずにうどんだけ1本いただく。小麦の香りとうまみが延髄を貫く。とにかく香りがよい。まるで焼きたてのベーグルのような、あるいは上手にやけたパンのような、そんな香りである。うまみもすごい。
釜揚げなので、表面は「つるん」というよりやや「ぬるん」だ。でも嫌みはまったくない。太さはやや太め。1本がひとくちにちょうどよいので、どんぶりから1本すくっては、ほどよく温められ、醤油が効いた出汁つゆにインストールしてディップインしてダイブイントゥーザナイトしてイートする。
辛めの出汁つゆとともにあむあむすると、とにかくうまい。正直、須崎さんのあと、これよりうまいうどんは現れないではないかと思ったが、これはこれで別物としてイエット・アナザー・うまい・ヌードルなのである。小麦ありがとうという気持ちになる。いつのまにか気絶、気がつけばまたしても完食である。
死ぬまでに何度行けるか
世の中においしいものはたくさんある。幸運なことに、思わず笑い出すくらいうまいものを何度か食べることができている人生である。私が知る限り、こういう笑い出すクラスの食べ物で、コスパ最強なのは間違いなく讃岐うどんだ。上の3店舗で私がたべたうどんの価格を見てみよう。
- 山内うどん店: ひやあつ小、250円
- 須崎食料品店: 熱いの小と卵、170円
- 長田うどん: 釜揚げ小、250円
たしかこんなだった(価格はメモってないので正確でないかもしれない)。まあとにかく安いのである。そしてべらぼうにうまい。つまりコスパが、価格競争力が極めてよくてコンペティティブでアウトスタンディングなのだ。
このうどん、死ぬまでに何度食えるか……ついそう思ってしまう。きっとまた行く。
次回のためのまとめ
最後に今回お世話になったWebサイトをまとめておきます。サイト運営者のみなさま、ありがとうございました。
おいしいうどんを食べさせてくれた、中西うどんさん、山内うどん店さん、須崎食料品店さん、長田うどんさん、うどん一福さん、ありがとうございました。少なくとも、ぼくが死ぬまでお店を続けていただきたいと心から思います。
突然誘ったにもかかわらず一緒に行ってくれた友人もありがとう。
Nikon D700 + Ai Nikkor 50mm F1.4S